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モダン数寄屋住宅

ちょっと贅沢なモダン数寄屋住宅

ちょっと贅沢なモダン数寄屋住宅

ちょっと贅沢なモダン数寄屋住宅

ちょっと贅沢なモダン数寄屋住宅

ちょっと贅沢な
モダン数寄屋住宅

 古い建築物には、その建築に携わった棟梁や職人の感性、遊び心、腕自慢が様々な形となり、さりげなくいたるところにちりばめられている。ふとした時にそれが目に留まり、その意図を、その背景を、もしくはその技術や方法、材料をあれこれと推測する。見たことがない細工を発見し、その工法を推察したり、意匠的な意味でしかないと思えた納まりに実は二重、三重の意味が隠されていることに気づいたり、職人の技術や心意気に舌を巻いたり。これも建築の楽しみ方の一つである。
 いつのころからか、作り手をしっかりと管理しなければ完成度の高い優れた建築はできないという考え方が誇張して広まり、職人の感性が必要とされる場面はめっきりと減ってしまった。それに伴い、職人という生き方の魅力も削り取られてしまったように感じる。

 木材は金属やガラス、プラスチック製の建材と違い、強度、重量、色、模様、質感など、全ての要素において均一ではない。そして周りの環境の影響を受けて常に膨張、伸縮、反り、捻じれ、割れ、変色などの変化を繰り返す。樹種による違いだけでなく、産地、立地、樹齢、部位、伐採時期、保管条件など様々な要素が複雑に作用しあった結果である個々の木材を上手に使いこなすためには優れた感性が必要である。
運ぶ、触る、切る、削る、磨く、折る、割く、叩く、組む、凹ます、ひっかく、濡らす、乾かす、腐らす、燃やす、埋める。春夏秋冬、晴れ、雨、乾燥、強風、山沿い、海沿い。様々な条件下で日々繰り返される実体験の中で体得する感性は、何もかもが数値化され判断される現代の建築においても価値があり、それなしでは本当は成り立たないはずの建築が確かにある。

 職人不足の深刻化が進む現代においては、職人の感性を必要とする建築を好むお施主や建築家、工務店が次世代の一流の職人を育てる役割を担っている。そうした流れの中、皆がそれぞれの立場で悩み楽みながらしみじみつくる建築、かつての数寄を凝らしながらつくられた数寄屋建築のような味わい深さがやんわりと伝わる建築、そのような建築に携わっていきたいと弊社は考えている。

総赤杉の土庇と三種類の洗い出し

総赤杉の土庇と三種類の洗い出し

 土庇の屋根は2寸勾配であり、上屋の屋根(3寸勾配)よりも緩い勾配にすることで、重心の低い安定した建物にみえるように設計してある。
 柱、梁、垂木、軒裏板など土庇の全ての部材に杉の赤身材を使用することで、軒下の空間は引き締まった印象をうける。また、傷みやすい白太部分を使用しないことで、経年による土庇全体の日焼け具合や艶の具合、木目の立ち具合などがほぼ均一となり、20年後も引き締まった印象は変わらない。

総赤杉の土庇と三種類の洗い出し

 柱は四方柾柱、化粧垂木は柾目材、軒裏板は吉野杉の柾板、そして桁は力強い板目(杢目)とし、柾目と板目を意図的に明確な使い分けをしてある。また、面取り(部材の角を45度に削ること)は部材に合わせて1mm、3mm、6mm、9mmと大きさを変えて削り、垂木に関しては約60度の猿頬面とした。このように、現在の住宅建築ではあまり重要視されていない工程を着実に積み重ねることで、自然とよい雰囲気の建築ができあがる。

総赤杉の土庇と三種類の洗い出し

 一方で、柱元の沓石は黒御影石を柱の小口より1.5mmだけ大きく加工して据えるなどの、伝統建築にはなかった独自のディテールも取り入れることでモダンな印象を漂わせている。
 道路から駐車場、土庇、玄関へと続くアプローチの足元を三種類の洗い出しで仕上げている。駐車場は川砂利入りコンクリートの洗い出し仕上げ。土庇は那智黒石の洗い出し仕上げ。そして、玄関の土間は棟梁が試行錯誤を繰り返した末に完成させたオリジナルの洗い出し仕上げである。

名栗の格子塀

名栗の格子塀

曲り欅

玄関

 昔から「建物の顔である」と表現されることの多い玄関には、工匠常陸のこだわりがさりげなく表現されている。

曲り欅

 玄関の式台(一段目)と框(二段目)は共木(同じ一本の丸太から切り出した材料同士のこと)の欅板を使用している。故に、2枚の欅板の木目や色合いや質感は限りなく近く、派手さやくどさ、やりすぎ感といった印象を与えることはない。
 また、自然が創り出したしなやかな木目の流れを不自然に切ってしまうことなく、緩やかに曲がった木目に沿って製材、加工を施すことで、式台(一段目)の曲線と框(二段目)の曲線が異なる曲線で加工されているにも関わらず、違和感は微塵もない。
 式台の下の黒い竹炭の束、白い洗い出し仕上げの土間、白いドイツ漆喰の壁。それらが欅板の温かみを引き立てている。

飾り棚

飾り棚

飾り棚

玄関の飾り棚には樹齢約1500年の台湾楠が使われている。希少価値が高く、葡萄杢と呼ばれる独特の木目と深い色合いが好まれ、昔から高級な木工品に使われてきた銘木であり、通常は建築に使われることのない木材である。常に希少価値の高い魅力的な木材を収集し続けることにより成り立つ意匠設計である。

魔除けの槐と樹齢約200年の山武杉

魔除けの槐と樹齢約200年の山武杉

魔除けの槐と樹齢約200年の山武杉

 樹齢約200年の山武杉の赤身部分の柾目材で組み上げた格子戸は通常とは少し違う組み上げ方をしている。
 通常の建具には上桟(上框)と下桟(下框)という横材が上下にあり、それらの部材が正面に見えてくる。今回の格子戸は上桟と下桟が縦格子の奥に隠れてほとんど見えないように組み上げてある。ここには山武杉特有の力強い柾目の魅力を最大限に引き出した格子戸にしたいという意図がある。
 鴨居には槐(えんじゅ)が使われている。槐は延寿(長生き)・縁授(縁を授かる)などの漢字で書き表すこともあるとても縁起の良い木であり、魔(鬼)よけの木としてもよく知られている。深い焦げ茶色の木目と白い皮肌の独特のコントラストが特徴的であり、一昔前の建築では床の間の床柱としてよく使われていたが、鴨居として使用されている建築は見たことがない。故に、槐であると見た人が気付くようにと、あえて槐の特徴である白い皮肌を一部残した意匠としている。

樹齢約400年の秋田杉を金継ぎ

樹齢約400年の秋田杉を金継ぎ

 床板(とこいた)には樹齢約400年の秋田杉を使用した。無数の割れが縦横無尽に走っており、使いものにならないと思われたかつての銘木を独自の手法により蘇らせた。
 すべての割れ目に真鍮が流し込まれ床板として仕上げられた姿は陶器に用いる「金継ぎ」を思わせる。

一輪挿し

一輪挿し

無双釘

無双釘

床板

床板

 モダンな和室に映えるようにと選ばれた純銀製の無双釘(花を飾るための釘)は、経年変化も楽しめる代物である。無双釘に掛けられた竹の一輪挿しは棟梁が制作した。

数寄屋建築の技法 八掛

 玄関奥の廊下に面する木製建具は、すべて樹齢約200年の山武杉の赤身部分の柾目板を使用している。材種だけでなく産地、木目、色合い、を揃えることで落ちついた空間となる。
 和室入口の木戸の納まりには強いこだわりがみられる。閉めきった時の見え方と開けきった時の見え方を対照的に見せるために緻密に計画され、そこに材料を選定する力と高度な職人の技術をもって、イメージが具現化されている。

玄関側から見た時

玄関側から見た時

和室側から見た時

和室側から見た時

 扉鴨居、方立といった枠材がなくてはならない。しかし、時としてそれらの存在が空間全体のバランスを考える際に邪魔に感じることがある。そのような時に、敷居、鴨居、方立をできる限り壁の中に隠し、それらの存在感を無くすために昔から使われてきた技法が「八掛」である。
 今回の建築においても、この「八掛」という技法を採用し、鴨居、方立の存在感を極力無くすことで、樹齢約200年の山武杉の板戸の美しさを際立たせる意匠設計となっている。

白杉の目透かし天井

白杉の目透かし天井

 リビングの天井の仕上げは杉板の目透かし貼りとした。よくみる仕様ではあるが工匠常陸ならではの一手間加えた納まりとなっている。
 材料は杉の柾目(追い柾目を含む)であり、かつ、見付けの白太部分が7割以上の材料を厳選し、天井の中央部分に向かうほど白太の占める面積が増えるように板が並べてある。

 板の表面は浮造り仕上げが施してあり、目透かしの底の深さは15mm(一般的には5mm程度)と深い。よって、木目がはっきりと浮き出ており、目透かし部分の影も濃い。黒い線、白い木肌、美しい木目のコントラストを最大限に引き出すための工夫がここにもある。

小細工

小細工

 キッチンカウンターの腰板は山武杉(樹齢約200年)の縦張りとした。12mm、15mm、18mm、21mmの4種類の板幅の材を不規則に並べ、かつ、隣り合う材に1.5mmの段差をつける納まりとすることで、正面からと斜めからでは全く異なる見え方がするようにと、少し「遊び」のある意匠としてある。
 カウンターの天板に綺麗な小節が点々とバランスよく並んでおり、綺麗な木目をした杉板をより味わい深い雰囲気にしている。一方、カウンター下の方立には力強い節が在り、「節」の気色を楽しんで造作されている。

 高級木材と聞くと「無節」を思い浮かべることが一般的ではあるが、綺麗で品のある節、力強い迫力のある節、希少性の高い節を厳選し上手く使い分けて建てられている名建築は意外と沢山ある。
 カウンターと繋がる上下の方立の見付け幅にもちょっとした加減がしてある。施工性や必要強度を考慮して方立の厚みを36mmとしたが、カウンター下の腰板や本棚との相性、リビング全体のバランスを考え、リビング側から見た時の方立が主張し過ぎないように見付け幅15mmと細くした。お茶室などの数寄屋建築においては、必要な強度を保ちつつ見た目を軽やかに細く見せる工夫が随所にみられるが、これもその種の工法である。
また、天板の木目と方立の木目が綺麗につながっている納まりにもぬかりがない。

リビング側から見た納まり

リビング側から見た納まり

リビング側から見た納まり

キッチン側から見た納まり

キッチン側から見た納まり

キッチン側から見た納まり

欅を魅せる

欅を魅せる

 欅材で作られた造作棚は古民家などによくみられる。故に、やはり無骨な和風の印象を与えがちである。また、手間をかけずに造作してしまうと野暮ったくなることが多く、木目や色味からみても、本格的な和風建築ではないモダンな空間には少し使いづらい材料である。
 また、欅板に関しても赤身のみを使用することで引き締まった印象に仕上げてある。

本棚と机

本棚と机

 杉材で作られた家具は安っぽく軽い雰囲気になりがちであるが、この本棚と机からは安っぽさや軽さは感じられず、むしろ重厚な印象を受ける。
机と棚板は八溝杉の板目を使用し、背板は吉野杉の柾目を使用するなど、産地と木目を使い分けることで引き締まった印象となっている。また、単に全て赤身材で揃えるというだけではなく、微妙に黒みがかった赤色の杉材のみを厳選して使用することにより重厚な印象を与えている。

本棚と机

さりげなく存在する節とその周りの木目の美しさに気付くのはしばらくたってからであろう

本棚と机

手前の板は一枚の長い板の両端部分を折り曲げたように組まれているので、天板と方立のすべての木目が流れるように綺麗に繋がっている

古木・笠間焼・鉛・真鍮

古木・笠間焼・鉛・真鍮

古木・笠間焼・鉛・真鍮

 手洗い台は樹齢約400年の秋田杉であり、床の間の床板と同じ真鍮を使用した加工が施してある。また、手洗い台の下に設置されたペーパーホルダーとタオル掛けも真鍮製のものにダメージ加工を施し、古木の雰囲気に合わせてある。
 笠間焼の陶芸家さんに特注で焼いていただいた洗面ボールは、大きさ、高さ、縁の形、色味、質感、排水口の形状など細部にこだわり設計してある。また洗面ボール廻りの水撥ねを考慮し、一部に鉛張りの壁を立ち上げた。程よいシワや凹凸が景色となり、経年の変化も楽しめる。

今回の建築に採用した一昔前の古き良き金物を紹介

引手

引手

 江戸時代に建立されたお寺の本堂の解体修理工事を請け負った際に保存しておいた「かすがい金物」を棟梁が削り出し、「引手金物」に造り変えた世界に一つだけの珍品である。
江戸時代の鍛冶屋さんが造り、約二百年の時を経てまとった独特の質感を見て触って楽しむことができる。

物入れ取手

物入れ取手

 本来は小引き出しの「引手金物」として作られたものをあえて扉の「引手金物」に使用した。
小さく可愛らしく、そして凛としている姿は取り付ける建具を選ばない。

引き戸金物

引き戸金物

 数寄屋建築の巨匠といわれた建築家、吉田五十八先生も好んで使用したといわれている「引手金物」である。色合い、質感、形、大きさ、全てのさりげなさが美しい。

取手金物

取手金物

 美しいアーチとくびれ、それを消さない角ばったシンプルなデザインは、どこにでも有りそうでなかなか無い。あっさりとした色合いや質感は建具を選ばない。

取手金物

赤く強い構造

赤く強い構造

赤く強い構造
 杉は檜や欅に比べて柔らかいが故に耐久性が低いと思われがちだが、杉の赤身はシロアリや腐れに強く、古いお寺の構造にも杉の赤身柱は使用されている。
 本建築は土台、柱(4寸角)、横架材、間柱は樹齢約70年の八溝杉の赤身材を使用した。間柱まで赤身の杉にこだわることで本当にシロアリに強い建築となる。そして登り梁や大梁、桁などには樹齢120年を超える杉の赤身材(産地は茨城、千葉)を使用した。野地板も八溝杉の赤身材で板厚20mmを使用することで、屋根仕上げ材の釘の効きを良くするとともに軒裏の湿気や結露による野地板の腐れにも強い仕様とした。

モダン数寄屋住宅

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