IbarakiI - Japan

© kousyou-hitachi

works

お問い合わせ

葉山灯堂 45R葉山支店

葉山灯堂 45R葉山支店

 新素材研究所から葉山灯堂新築工事のお話を頂いたのは令和2年、弊社が創業2期目の夏である。お施主は45rpmスタジオ株式会社であった。
 木材の質や色気、メンテナンス性にこだわり、長期にわたり美しく頑丈な建物の建築を求められてこそ、弊社の力が存分に発揮される。設計事務所とお施主を見れば、葉山灯堂新築工事プロジェクトにおいて、丁寧な段取りと丁寧な仕事を強く求められることは明白であり、相性の良い仕事であると感じた。信用と実績を全く持ち合わせていなかった弊社の力を信用し、お施主に施工業者として推薦してくださった榊田倫之先生には心から感謝した次第である。また、お施主である45rpmスタジオ株式会社の高橋慎志社長の大胆なお心を無くして弊社の本プロジェクトへの参加は実現し得なかったことは言うまでもなく、素晴らしい機会を与えてくださった高橋慎志社長に深く感謝し、その期待に報いるべく職人一同精進したことは言うまでもない。
 そして、栄港建設(横浜市)、すわ製作所(世田谷区)、正木構造研究所(杉並区)の多大なるお力添え無くして本プロジェクトが無事に竣工することは想像しがたく、共に建築をさせていただけたことに感謝するとともに、一緒に本建築を楽しめたことを嬉しく感じている。

  • 設計:新素材研究所
  • 設計:新素材研究所
  • 設計:新素材研究所
  • 設計:新素材研究所

設計:新素材研究所

山武杉

山武杉

山武杉

基本設計がかたまり始めた当初、主要木材の樹種を選定する際に、欅や檜では社寺建築に寄りすぎてしまい、米ヒバでは少し雰囲気が軽く、米松では面白くないとの考えが示された。そこで弊社が提案させていただいたのが山武杉の赤身である。

山武杉は江戸時代の頃から指物師や大工、木工職人に高い評価を受けてきた千葉県産の杉である。通常の杉と比べ、硬く、油気が多い。製材後の捻じれや割れ、痩せなどの動きも比較的少なく扱いやすい木材である。

山武杉

山武杉

鉋で削った時の手に伝わってくる感触は杉というよりは松に近い。それだけ冬目が硬く厚いということである。丸太の小口を見ても、通常の杉と比べて年輪の線が太く力強い。十分に乾燥している木材であっても鉋屑はしっとりと油気があり、べたべたした手触りでヤニ松や屋久杉を削った時の鉋屑に似ている。鉋で仕上げる職人にとっては逆目がきつく少し削りづらい材料である。仕上がった杢目は力強さと美しさを兼ね備え、油ぎった硬い木肌は艶やかで独特の存在感がある。
腐れに強く、強度があり、木材価格を抑えられる山武杉の赤身は、海岸沿いの厳しい環境に建つ葉山灯堂にとって最良の選択であり、目の肥えたお施主も山武杉特有の表情や色合いを気に入ってくださり、採用されることとなった。

山武杉

令和3年2月某日、千葉県木材市場にて樹齢二百年を超える山武杉の原木丸太を片っ端から競り落とした。
11月から1月頃までの期間に伐採された杉の原木は水分量が少なく身が引き締まっており建築材には最適である。よって木材の乾燥期間を考慮すると、この時期に伐採された山武杉、すなわち当日の競り市に並んだ中から必要な山武杉をすべて買い揃えなければならなかった。
柱・桁・梁、登り梁・隅木を「芯去りの赤身材」で取るためには、かなり太い原木が必要である。よって優良な太い原木から順に買い占める算段とした。6mの原木に限っては市場に並んだ本数が予想よりも少なかったため一本たりとも競り負けてはならず、必ず買い占めて帰ることが必至であった。
競り市日の前日に下見をした際、ずらりと並んだ競りを待つ原木丸太と設計図書を照らし合わせながら一本ずつ観察し、熟考しておいたこともあり、市日当日に迷うことはほとんどなかった。
そして36本の原木丸太を競り落としながら、頭の中で葉山灯堂を組み上げていった。
令和3年3月より、株式会社本田(土浦市)の製材所にて2月に競り落とした原木丸太の製材が始まった。
原木での買い入れはギャンブルである。外皮や丸太の切り口、伐採した業者や場所など観察眼と情報網を駆使し間違いなく良いものを選んだつもりでいても、結局は割って中身を見てみないことには確実なことは何もわからない。設計図書から勘定して原木丸太の必要本数を予想しても所詮は「取らぬ狸の皮算用」である。
思いもよらぬ場所に腐れ、割れ、シミ、死に節、鉄砲玉が現れる。また、見た目よりも曲がっていたり、窪んでいたり、楕円だったり、末落ちがきつかったりと、製材機の台に設置された原木は備え付けの赤外線レーザーを当てられると、容赦なく想定外の現実を突き付けてくる。その都度、設計図書と原木をにらみながら全体の製材プランを細かく変更しなければならない。設計内容、未製材の原木、製材された木材、途中まで製材し用途を保留にしている木材、これらを一つに絡み合わせた全体のイメージがどれくらい正確であるかが重要になってくる。

山武杉

段取り八分、仕事二分

規格や用途、売り主、価格、使用時期が全く決まっておらず、製材した結果を見てからそれらを判断する通常の原木丸太の製材と今回の製材では、鋸を一挽き入れる緊張感がまるで違う。価値のある貴重な原木であればその重みは更に増す。
製材する原木丸太の順番、鋸を入れる順番、箇所、角度、厚み、全てを細かく指示しながら進めた製材は考えている時間や角度などを微調整している時間が長く、36本の原木をすべて挽き終えるのに10日間を要した。

段取り八分、仕事二分

段取り八分、仕事二分

山武杉

製材された山武杉は割れ止めの処置をして、風通しの良い日陰に保管し自然乾燥させた。10か月後、乾燥により生じた木材の痩せ、割れ、反り、捻じれなどの癖を取りながら、仕上がり寸法より5mm大きい寸法で各部材を加工し、更に1か月程度自然乾燥させた。乾燥による木材の動きが完全に落ち着いたことを確認したのちに、最終仕上がり寸法に加工した。

山武杉

山武杉

いかに素晴らしい設計であったとしても本プロジェクトのような本格的な木造建築において最終的な完成度を決定づけるのは施工側である。
木材は強度、重量、色、模様、質感など、全ての要素において均一ではなく、さらに、周りの環境の影響を受けて常に膨張、伸縮、反り、捻じれ、割れ、変色などの変化を繰り返す。よってそれらの要素をすべて考慮したうえで、適材適所に木材を使い分け、組み建てる順番を考え、仕口を考える。

適材適所に木材を使い分け、組み建てる順番を考え、仕口を考える。

適材適所に木材を使い分け、組み建てる順番を考え、仕口を考える。

総重量約700キロの
トップライト

今回の木造の軸組においては、正木構造研究所が構造設計をしてくださった。本建築は12角錐(一辺約3メートル)の屋根形状で、かつ、屋根の中心に六角錐のトップライト(高さ約3メートルの鉄骨造で総重量約700キロ)が設置され、その下の屋内空間には柱が一本も立たない設計であり、在来の大工では考えの及ばない構造であった。たたき台の構造設計の段階で正木所長の構造計算の理論、根拠、考え方を説明していただいた時は理解はできたものの、その強度を信じるまでには時間を要した。
 正木構造研究所は、弊社の木造軸組みに対する考え方、山武杉の強度に対する弊社の感覚、組み立て方、加工する順番、施工性、止水性、メンテナンス性など細かい要求や懸念を真剣に聞き取り構造設計に取り入れてくださった。

基礎の施工は株式会社栄港建設

基礎の施工は株式会社栄港建設

十二角形の中央に仮設矢倉を設置

十二角形の中央に仮設矢倉を設置

柱、桁、鴨居はクレーン車を使用せず職人の手でひとつひとつ順番に建て込みをした

柱、桁、鴨居はクレーン車を使用せず職人の手でひとつひとつ順番に建て込みをした

作業風景

作業風景

作業風景

基礎の施工は株式会社栄港建設

設置した仮設矢倉の天端にジャッキにより高さを上下できる台を設置した。台の上に鉄骨のリングを仮置きし、ジャッキによりリングの高さを設計の高さより10ミリ高い位置に設置した

作業風景

作業風景

作業風景

鉄骨リングと隅木12本、登り梁24本を一体化させた

鉄骨リングと隅木12本、登り梁24本を一体化させた

作業風景

木目を合わせた厚さ45㎜の面戸板を番付順に叩き込む。番付は仕上がったときに接合して見えてくる隅木、登り梁、桁のそれぞれの木目と面戸板の木目のバランスがつり合うように考えられている

木目を合わせた厚さ45㎜の面戸板を番付順に叩き込む。番付は仕上がったときに接合して見えてくる隅木、登り梁、桁のそれぞれの木目と面戸板の木目のバランスがつり合うように考えられている

作業風景

作業風景

作業風景

屋根工事が完了し、屋根の総重量が決定した後に鉄骨リングを支えていた台のジャッキを様子を見ながら徐々に下げていった。問題ないことを確認した後に仮設矢倉を解体撤去した

屋根工事が完了し、屋根の総重量が決定した後に鉄骨リングを支えていた台のジャッキを様子を見ながら徐々に下げていった。問題ないことを確認した後に仮設矢倉を解体撤去した

葉山灯堂 45R葉山支店

ご質問などお気軽にお問い合わせください
心を込めて丁寧に仕事させて頂きます